俳句集U           

風の符を奏でるごとく柳の芽

幼き日芒大きく野は広し

夕景色柿の色をも溶かしこみ

月の野を渡る蝗の輝きて

瀧壷に天より落つる水の精

遠吠えに雨月の闇のどこまでも

褐色の裸子海に溶けて消ゆ

嘘多き世に水仙の花一輪

初霜にコ−ヒ−をかける私の他人

水色の朝顔と会う散歩道

似た人と遠く礼する冬霞

夕凪をボケットに入れビ−ル飲む

水羊羹甘き迷路の午後三時

雪晴の新らしき朝 舞い降りし

夕立の真白き世界を窓辺にて

さざ波の水面をとかす春の雨

沈丁の香が揺れ花に罪な風

柿若葉古都の雨をも色に変へ

装いし母が満開入学式

四季の歌口づさみつつ更衣

狛犬の影の長さよ神無月

逆光の黒き八ッ手に花ありき

うかれ猫今日の恋路は屋根づたい

毛虫捕る箸のさばきは祖母じこみ

向日葵の空限りなく青く澄み

野遊びの果てに星降る夕となり

純白を夏草が包むウェディング

満天の星静かなり冬の海

寒月や神棲む峰に光り渡る

お彼岸の四天王寺に日を過ごす

天の川万葉歌人の才偲ぶ

蝉の鳴く生き急ぐかの如くなり